俺はインディゴ 名前はまだ無い(6)

beans

 

音が出ないよう、そっと黒毛はドアを閉めて外へ出た。

なぜか俺は黒毛に着られている。

 

自転車に乗って人をかき分けるように進み、小汚いビルの前で降りた。狭い階段をゴツゴツと音を立てて上り、懐かしい匂いのする広い場所に入っていった。

「いらっしゃいませ~。きゃあ、ねえさん久しぶり! 髪型変えた? 痩せた? 雰囲気ちがう~」

髪の毛の大きな女が近づいてきた。

 

「店 行く前にちょっと寄ったの。顔見に来ただけだけど」

「ぜんぜん、オッケー。ていうかぁ、なんか雰囲気ちがくね?男?男できちゃった?」

髪の分量は大きいが 背の低い女が、ぐいと近づいてきた。

「すごっ。なんでわかったの?」

「そのジーパン、ねえさんっぽくないし」

「そう。これ彼氏の着てきたの」

マモル君の部屋の外で、頬を赤く染めている黒毛は珍しい。

「あーはいはい、そういう事ですか。めでたいねぇ♪ 誰よ、私の知ってる人?てかそのジーパン、うちで買ったヤツじゃね?」

「違うよ、これはマモルの行きつけ。公園の裏手にある 昔からの古着屋さん知ってる?」

「あーあそこ。高いよね。ウチらが買うもの無いって感じ。こだわってる人が行くとこでしょ。カリパクしたの?」

髪の分量が大きな女は、不機嫌そうに腕組みをした。

「んなわけないじゃん。カリパクって言えば、ユカがうちに来たときに貸した服、まだ返してもらってないんだけど」

急に上目遣いになり、ユカの声がワントーン高くなった。

「ほんとだ!ごめんねえさん。まだ洗ってないの。すぐ返すから。あの日は本当に助かりましたぁ。」

「(・・・まだ洗ってないって何ヶ月そのままなの) まぁいいや。あれから大丈夫なの?」

「大丈夫よ、てかユカも悪いと思うの。彼ってああ見えて繊細だから悪気は無いんだと思うんだ。」

「まだそんな事言ってるの。いい加減怒るよ!」

「待って、ねえさん。聞いて聞いて。ユカ、ワンルーム借りたよ!言われたとおり炊飯器も持って出たし。マジあれ無いとヤバいわ。金が。」

「彼ん家 出たんだね!えらいっ。よく頑張ったね。ユカ、よく働くし全然ひとりで大丈夫だよ」

「そうなんだけどね・・。他に女 居そうなんだよね」

「えっ?別れてないの?・・・あ、時間だ。そろそろ店行くね。また聞かせて」

 

黒毛は軽く手を振って、古着屋を出た。

少し後ろにズレた大きな髪を元の位置へ直しながら、またねーっと叫ぶユカ。

 

俺という戦利品を見せつけに行ったはずの黒毛は、どこか不完全燃焼な想いをぶつけるように 自転車のペダルを力強く踏んだ。

 

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