俺はインディゴ 名前はまだ無い

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俺はインディゴ 名前はまだ無い

fashion・noww

 

 

床で朝を迎える俺は、彼に大切にされているらしい。

マモル君は頭の毛が少なくなってきたことを気にしている三十路。なにを変えるわけでもなく、暇さえあれば30歳を過ぎることに悩みを見つけ、頭を悩ませ抜け毛を助長している。

夕べの酒場でも、毛の話を3時間もしていた。

そんな会話で、カウンター向こうの黒毛に好かれるわけがなかろうに。とはいえ、恋のために着飾った帽子は良かった。小さな子供にも似合いそうな黄色とネイビーのチェック柄。その色気の無さが響いたようだ。

「その帽子かわいいですね。買ったんですが?」

機転の利く問いかけをする。褒めどころを知っている黒毛を、俺も気に入っている。

「いやぁ、むかしね。買ったのが出てきたから被ってみただけ。」

つまらない。実につまらない返しだ。春の終わりに『黄色いチェック柄を着こなす男性って、おしゃれっぽくて素敵』という黒毛の発言を聞いて、夏セールのワゴンでやっと見つけた帽子じゃないか。マモル君のそういう不器用なところが魅力でもあるのだが、黒毛には響いているのだろうか。俺からはその表情は見えない。

「帽子、好きなんですね。いつも被ったまま呑んでるし。」

「まぁ、なんでもいいんだ。被れたら・・・。薄くなってきててさぁ。」

おもむろに帽子を取って、『この辺りが』と生え際を見せながら髪を何度もかき上げる。

そこから毛の話が店を出るまで続いた。

話のつまらなさはともかく、マモル君の選ぶ靴は面白い。

出会って一年も経たないが、靴横に白い3本線が入った黒いスニーカーを、どこに行くにも履いている。この煮染めた一足とよく似た3本線と、歩いているとよくすれ違うのだが、どうやら知り合いではないようだ。

 

酒場を出て自転車のペダルを回し、家に着く。

3本線スニーカーを玄関で脱ぎ捨て、

太いベルトを外し、

床へじゃらりと脱皮するように俺を脱ぐと、

マモル君は流れ落ちるように、ベッドへ滑り込み眠った。

 

大切にされている

俺は 『デニムパンツ』だ。

 

床へじゃばら状に丸く置かれることで、俺が美しい色になると思っている、彼の愛情表現なのだ。

 

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