小説

俺はインディゴ 名前はまだ無い(5)

beans

(5)

 

最近俺は クローゼットの中で3つ折りされることが多くなった。

黒毛が床から俺を拾い上げしまい込むのだ。

 

クローゼットの中は、湿気とベニア板の匂いが立ちこめ良い気分でない。居心地の悪さを感じているのは 俺だけでは無いようだ。

「あぁ、またカビが増えている。見てくれよ、こんなに美しいウールの上で、微生物の帝国が広がっていく様を」

クローゼットの奥の方から声がした。

「ちょっとここからは見えないが大変そうだな」

奥に掛けられているウールの服が初めて声を掛けてきた。よくクローゼットを出入りするようになった俺に、興味が沸いてきたのだろう。

「大変なんてもんじゃない。ずっとハンガーに掛けられっぱなしさ。この部屋に来る前の部屋は、風も入って過ごしやすかったが。それにしても、この私がずっとこの状態だなんて変な話だと思わないか?」

気高さが空回りするウールの事より、マモル君の 前の部屋に興味がある。

「マモル君の前の部屋を知っているのか?」

「知ってるさ。トモコが百貨店から私を連れ帰った日から、3年は住んでいたからね。白とゴールドカラーを基調にした部屋は 私にぴったりの空間だったさ。マモルに私を着せて、トモコは“やっぱり高級なジャケットの方が似合う”と私を褒めてくれたものさ。外から帰ると凜とした毛のブラシで、トモコは私のホコリを取り除いてくれた。それは良いが、鼻を衝くような甘い匂いのする女で・・・」

話が長そうなので、俺は話題を変えた。

「そうか。良い部屋だったんだな。なんで着られ無いのにここに居るんだ?トモコというのは、ここで見たことが無いな」

「着られないとは失礼な奴だ!私は待ってやっているんだ。マモルが私に似合う人間になるまでな。なんなんだ君は。色が抜けたツラをして偉そうに」

どうもこのウールとはウマが合わないようだ。気に触る事を言って悪かったと伝え、俺は閉じた。

 

その夜クローゼットから久しぶりにウールが取り出された。

 

「なにそれ、肩パッド凄くない?フリマで買う人いるかなぁ。いつ買ったの?」

黒毛が聞くと

「忘れたな。もらいものだし」

そういうと大きな紙袋に ぐいっと詰め込められていた。

 

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