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タバコの煙で真っ白になった部屋で、マモル君は陶酔して歌っている。
狭い部屋に人間が7人が座っているが、数時間前には13人が引き詰めていた。けだるいムードだが楽しいようだ。
「終電あるって言ってたけど、あの2人、怪しいですよね」
笑顔の不自然な女が、歌い終えたマモル君の肩に顔を置いて話した。
「怪しいって?」
頬を反らすように身をかがめて聞き返すと、水滴で濡れたコップを取りながら少し横にずれて座り直し、ひとくち呑んだ。
「店長とカズミさん。仕込みの時間もシフト入ってるの。フロアのスタッフは居なくても良い時間におかしいわ。 また10代に手出して、これで何人目かしら」
「10代だったけ。そうなんだ」
興味なさそうな返事にも かまわず、不自然な笑顔は話し続ける。
しかし室内に響き渡る大きな音がさえぎり、話の内容まではマモル君には届いていないようだ。そのおかげか、笑みを浮かべつつ時が流れていた。
「これ誰~?」
誰かの声を聞き、皿や空いたコップで乱雑になった机の上からマイクを探しが始まる。その拍子にコップが倒れ、俺に薄い酒が降り注いだ。
「うわっ。ちょっと、誰か歌ってて」
そう言ってマモル君は、タオルをゴシゴシと擦りつける。おおまかに拭き取られたが 大切な俺を汚してしまい、歌う気が失せたようだ。マイクを取らずにトイレへと立ち上がった。
トイレから煙たい部屋に戻ると、部屋の6人は握りこぶしを上げて「ヤーヤ ヤー」と歌い終わった所だった。
「ポケベル鳴ってたよ」
不自然な笑顔が にこやかに言った。先日、黒毛からもらった 黒く四角いの機械のことだろう。薄手のスカジャンから取り出し 表記された数字を見つめると、
「・・・(?、シクイオロ?)」
マモル君は数字の解読を諦め、分厚い本をめくって歌う曲を探し出した。
“49106”
「(至急Tel ・・・か)」
不自然な笑顔は真顔でポケベルを見つめ、髪をかきあげながら笑顔にもどった。