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「夕ご飯は食べていくの?」
膝の白い女が 洗い上がった服達を畳みながら、斜め後ろをチラリと振り返り聞いた。
今日のマモル君は魂が半分抜けてしまったのか。見たことの無い表情で過ごしている。
テレビを点けて だらりとソファに転がっているが、どこか居心地悪そうだ。
「いらない。そうだ母さん、新しい仕事先の近く旨い店が多いんだ。今度ごちそうするから来てよ。パンナ・コッタが上手いらしいぜ」
すると畳み上がった服を抱え、忙しそうに立ち上がりながら
「そんなパンナこんなか、どんなか知らないけど、マァちゃんしっかりしないと。そんなチャラチャラしたものばっかり好きなんだから。母さんはあれ、テラミスが好きだわ。それは無いの?」
と言い放ちつつ、
どこかへ消えた。かと思えば、またどこからか現れ・・今度はダイニングテーブルの下のゴミを這いつくばって拾い始めている。
「・・・どうだろうな。帰るわ」
不機嫌そうに立ち上がるマモル君。
「もう帰るの。せわしない子だね」
ダイニングテーブルの下から立ち上がるなり、白い膝の女は、俺を見て眉間にシワを寄せた。
「臭そうなジーパン履いて。新しいのを買ったらどうだい。見てコレ、ちょっと前に ジーパン買ったのよ。あ、いやジーンズ?あれよ、女の子のジーンズよ。流行ってるらしいわよ」
そういうと片足を前に出して、俺に向かってポーズした。
確かに しなやかなラインのデニムパンツだ。
その 膝だけ白く色落ちしたデニムパンツは、マモル君の母親のワークウェアなのだろう。