俺はインディゴ 名前はまだ無い(11)

beans

11

 

ビルの向こうは またビル。こちらもビル。

ビルとビルに挟まれた夕暮れは、虫の音も夕日の後ろ姿も感じることは無い。ただ灰色の空気が、こそいら一体を沈み込んで 夜がやってくる。

 

灰色になっていく街を、マモル君は俺のポケットに手を突っ込みながら歩いている。

 

「あっ」っと呟くと同時に、前方から歩いてくるワイシャツの男も、こちらに気がついたようだ。のっしのっしと歩いて近づいてくる。

「奇遇だね。昨日の面接の・・やまもと・・」

「山川です。昨日はありがとうございます。社長、お出かけですか?」

どうやら昨日、珍しくスーツを着て出かけたのは 面接へ行っていたのか。

「・・そうだ、君も来ないか。今からどうだ」

「えっ?良いんですか?面接の合否・・あれ・・いや、ありがとうございます。えっと、今なにも持ってなくて」

「大丈夫だろう、行きつけのママに合わせてやるよ、妖怪ババアだけどな。ババアはラウンジじゃないと言い張るが、小綺麗な子が入ったようだし 丁度いい」

「えっ。ラウンジ・・」

話し方も のっしのっしと突き進むような小男は、顎に被りそうなほど襟が立ち上がったワイシャツを着ている。丁寧に仕立てられたような凜とした一着だが、襟の高さは男の好みだろうか。

「あ、あの高そうなイメージなのですが・・」

「いいや、ババアの所は座るのに3万ぐらいだったかな。そういう事は任せときなさい。そう、あれは7年ぐらい前だったか、バブルだったから あの頃はもっと」と、長い思い出ばなしを続けるうちに、店の前に着いた。

 

「いらっしゃいませ」

カランコロンと鳴るドアを開けると、女のしゃがれた声が響いた。

 

「いらっしゃいませ、鈴木様。少しお痩せになったのかしら。あ、お連れ様ですか」

外では見かけない繊細な生地で仕立てられた、ボディラインが美しく際立つドレスワンピースを着た女が奥から出てきた。

ドレスだけも空間が華やいでいたが、俺を見るなり しゃがれたドレスは火が消えたような空気を醸し出した。

「・・7時から団体様が入ってて、今日はちょっとお席がご用意できないのよ」

「団体って、どれぐらいだよ」

「5~6人ぐらいとお聞きしてるんですが騒がしそうなので、鈴木様にはゆっくりしていって欲しいの。来てくださる前に、お電話くれたら良かったのにぃ」

「6人ぐらいなら、カウンターでいいよ。すぐ帰るから」

「それが会社の子らを作れてくるらしく、途中で増えるらしいのね」

「気にするな。大丈夫だから一杯で帰るし」

突き進むワイシャツは譲らない。

「ええ。ここまで来て頂いて嬉しいし、寄っていって欲しいけど。急がなくても、ゆっくりお着替えしてから来て頂いても・・ねぇ」

と言って、チラリと俺を指すように視線を投げた。どうやら俺は店に入れない衣類のようだ。

「・・あ、ああ。そうか。まぁ良いじゃ無いか、最近は客も減っているんだろ?」

するとしゃがれたドレスは早口に

「それはちょっと、ねぇ。この場所で店 してますから。鈴木様ならわかるでしょ。うちのルールがあるんですよ。長い付き合いじゃないですか」と、突き進むワイシャツを上回る突進力で熱く語りだした。

「お、おう。わかったわかった。今日はやめとくから」

そう言うと突き進むワイシャツとマモル君は、エレベーターに乗り込み店を離れた。

 

「まだ時間あるか」

「はい!」

 

外に出ると、ビルとビルの隙間にネオンが輝いていた。

 

なぜか結束が強まったような二人は、荒波を探しに行く少年のような足取りで、灰色の夜繰り出していった。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です