俺はインディゴ 名前はまだ無い(13)

beans

13

 

狭いカゴの中で黒毛を待っている。

一緒にいた服達は、使い込まれた洗濯機に放り込まれ 回っていた。俺だけはプラスチックのカゴに入れられたのだが、黒毛が去ったあと、ピンク色の肩が尖ったワンピースを着た女が 俺に気がつき、カゴごと部屋の奥にある棚へ移動させた。

 

ホコリが乗った棚は、同じプラスチックのカゴが2つ収納されており「カゴ・自由にお使いください」と紙が貼られている。棚の奥からは吹きだまりのような、なにか異様な空気を醸し出していた。

 

帰ってきた黒毛は、洗濯機から回っていた服たちを取り出し出て行ってしまった。

俺は どうやら忘れられたようだ。

 

ヒソヒソと棚の奥から声がする。

「忘れ物」と書かれた段ボールの中で、ボーダー柄の衣類と猫のキーホルダーが話している。

「…今日も来ないよ」

「…大丈夫、きっと迎えに来るから」

「もうダメだよ。リボンも禿げて赤くないし・・・私、キティって書いてあるけど偽物なの」

「猫も色々あるのね。私なんか“似てて可愛い”から選ばれたカットソーよ。あたしより先に出来た、うり二つの服があるらしいわ。でも偽物なんて思ったこと無いわよ、あたしを可愛いって言った男もいるわ。うん、沢山いたわね」

「…う、うん。なんか大人の世界だね」

「…そうね、猫も そのうち解るわ。男って優しいのよ、残念なぐらいに」

 

聞こえてないフリをした方が良さそうなので、俺は天井の空調から出る風に、なびかれて揺れ動くホコリをボンヤリ眺めていた。

 

遠くから黒毛の声が近づいてきた。この部屋に向かってきているようだ。

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。男性のジーパンだし、山川さんかもって」

ピンク色の肩が尖ったワンピースと黒毛が足早に入ってきた。

「あ、あの看護師さん。色々ありがとうございます。」

「いえいえ。あ、あのカゴに」

尖ったワンピースは俺を指さし、忙しそうに出て行った。

 

畳まれた俺は 黒毛の脇に挟まれ、カーテンに仕切られたベッドに着いた。

寝ていたマモル君は目を開け、掠れた声で聞いた。

 

「あった?」

「うん。でも洗ってないよ、デニムの事は よく解らないから」

「…」

フゥ とため息をつき、寝たまま天井を見つめ、ゆっくり話す。

「…もう、洗って大丈夫だから」

床に横たわる 大きなバッグの上へ俺をポンと置くと、ベットの傍に座った黒毛は 力強く呟いた。

 

「あのさ、結婚しようか」

「…え」

 

うん と返事をするマモル君は動揺しているようだったが、

黒毛の

女は  微笑んでいた。少しやつれた、残念なぐらいに優しい笑顔で。

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