小説

俺はインディゴ 名前はまだ無い(8)

beans

 

白いスニーカーを履いた男が、カウンターの真ん中でウイスキーを飲んでいる。グラスぎりぎりの大きさの氷が 溶けるのを楽しむように時間をかけていた。

少し飲むたびに、への字になる口元。その度に、まわりのヒゲが90度立ち上がる。

 

ヒゲを立ち上げる男は、グラスをひとさし指でピピッと指さし 3杯目を頼んだ。

「お願いね。    ・・氷、このままで大丈夫よ」

「今、人が引いてるから。グラス変えさせてもらいます、ありがとう」

ガツガツと氷を砕く音がする。ビールや混ぜ物を飲む人間の多い 黒毛の酒場では聞き慣れない音だ。

 

手持ち無沙汰にナッツを摘まみ、ヒゲを上下させながらマモル君に話しかけてきた。

「良い店ですね。看板 見て入ってみたんです」

「あぁ、あの看板。変ですよね。あれ見て入れるとは、なかなか変わった方かと。だれかに聞いたんですか?この店」

珍しく初対面の人間に饒舌に話す。どうやらヒゲを立ち上げる男を気に入ったようだ。

「ははは、そうかもしれませんね。変わっているかもしれません」

笑いながら足を組み直すと、軍隊で見かけそうなトレーニングシューズの先がこちらに向いた。

「仕事でこっちに来てるんですが、たまたま通りかかっただけなんですよ。いい感じの店で飲むのが好きでして。趣味みたいなものです。」

「いやぁ・・変な店ですよ、つまみがチョコレートしか無い日もあるし。」

「ははっ。そいつは良い。ウィスキーボンボンを思い出しますね」

談笑する2人をよそに、黒毛は気配を消しているようだ。話題に酒場の話が出ると、いつもなら割いって来るのだが。

 

 

「いや楽しかったよ。明日早いので、そろそろ」

ヒゲを立ち上げる男は 両手の指先でバツを作ると、カウンター下からバッグを取り立ち上がった。

「常連さんですよね。また寄らせてもらいます。えーっと、おふたりは恋人・・かな?」

すると気配が無かった黒毛が、話を断ち切るように

「違います」

と早口に言いながら小さい紙をカウンターに置いた。酒代が書いてあるのだろう。

「はは、失礼。お美しい店主なので、確認しないとね」

ニッコリと笑いながら金を渡すと、白いスニーカーをぺたぺた鳴らして店を出て行った。

 

二人きりになった酒場に沈黙が続いた。

 

「もう閉めるんだけど」

不機嫌そうに黒毛が言った。

 

グラスに残った酒を飲み干すと、マモル君はポケットからカギを出しカウンターに置いた。

「これ、家のスペアだから使って。」

一言を絞り出し、ドアに向かう。

開けて出る前に立ち止まり、半分振り返ったが、言葉を選べず うつむいて出て行った。

 

 

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