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「少し片付けてよ」
パタンとクローゼットを締めならが、黒毛が訴えた。
洗い上がった俺と靴下を クローゼットの中の引き出しに詰めるのは、どうやら黒毛の仕事ではないようだ。
「あぁ、置いといて」
「もう入れといたよ」
苛立った声が聞こえる。
「・・これは、このままなの?」
「ああ。それはそのままにしといて」
きっとダブリューさんの事だろう。
マモル君は デニムパンツを脱いだまま、じゃばらの状態で床に置き大切にしたい人だ。
昔、俺にそうだったように。
「それ、本当にヒゲ付くの?」
「うーん、どうだろう。良いって聞いたよ」
「前のは股のところから、綺麗な線が出来てたね」
俺のことだ。
「あー、あれは買ったときからあったよ。古着だからね」
「古着って全部そうなの?」
いや、違う。
「そうなんじゃない? 俺のも そのうち出来るし」
いや、難しいぞ。ダブリューさんはゆったりしているじゃないか。
「そっかー、楽しみだね」
黒毛の声は、いつのまにか不機嫌が直っているようだ。
気のいい女なのか。いや違う。
俺と一緒にしまわれた靴下は、表裏が裏返ったまま畳まれている。きっとマモル君が脱いだときに 裏がえったのだろう。
ここ最近、黒毛は あえて そのまま畳んでいるのだ。