17
自転車のハンドルに掛けられた紙袋の中から、黒毛とユカの話しを聞いている。
どうやら俺は マモル君の家には帰れないようだ。
「チョー嬉しいんですけど。でも、入るかなぁ」
「大丈夫よ、マモルのだし、私でもブカブカだったもん」
「ありがとう! たくさん着るよ~。いい感じのジーパン、欲しかったんだよね」
俺はユカのものになった。
「マジやばかったっしょ。あの映画」
この2人の立ち話は長い。
「ネオのスローモーションみたいなの! こんなん、こんな感じで・・・わぁ出来ない」
「ねえさん、こうっしょ。・・・うぐうぅ」
「ぎゃはははは! それ、ブリッジだし!すごいね、柔らかい~。てか、道ばたでヤバいね。ほんとユカってイケてるわぁ」
「でしょ。90年代の伝説の少女ってユカのことだし」
それはテレビに出ていた、マモル君が好きな“8頭身美人”と言われている人の事だ。ユカのことでは無い。
「そうだ、カプセル。ユカはどっち選ぶ? 赤いの 青いのん」
「ユカ、だんぜん青。だって、赤だったら、追っかけられて怖くない?夢 見てる方が幸せじゃん」
「だよね~・・・・でも最近、こども欲しいなって思ってるんだけど、そう思うと、なぜか 赤じゃないと いけない気がするんだよね」
「えー、なんで?変なの」
「うん。なんでだろうね」
「三十路近いからじゃね?そんなの30歳過ぎたら、どうってこと無いし」
「そうかなぁ(・・あれ?ユカって何歳だっけ)」
俺の入った紙袋が、ユカの手に渡された。
「じゃ、そろそろ行くね」
「ねえさ~ん。夢みてた方が楽しいよ~」
ゴトゴトと揺れるのは、俺の入った紙袋を持ち上げて 手を振っているからだ。
この先の未来に、一抹の不安を感じる。