18
ユカのものになったのだが、俺は未だ紙袋の中にいる。
隣にも同じような紙袋やビニール袋が、床に放置されているようだ。
あれから 何週間たっただろうか
今度は 段ボールの中に詰め込まれた。
周りの袋達も、俺の袋と重なり合うように詰め込まれていく。
さらに、数日が過ぎた頃だろう。
俺は紙袋の中から、ユカの手で取り出された。
「あった、あった。コレで面接キマりっしょ♪」
「それユカの? えらいデカない?」
初めて聞く声だ。
「ユカ、ベルトしたら余裕だし。メグは細いからね」
「ないない。全然細ないし。てか、履歴書は書いたん? 紹介だけど 部長、落とすときは落としそうだから・・・」
「ま、そのときは 別の仕事 探しまーす」
バッと俺を広げると、筋肉を感じさせない 柔らかな足が入ってきた。
「やっぱりこのデニム、いい感じじゃね? 時間あるし、丈上げしようかな。メグ、ちょっと踵みてくれない?」
「ええで。・・・・・はい留めた。どないする?うちのミシン貸しても良いけど、やったろか?」
「わー♪ お願いしますぅ。ユカ、ミシンあまり上手くできないの」
たっぷり折り曲げられた俺の裾には、文房具用のシルバークリップが付いている。クリップが外れないよう。珍しくメグは 優しい扱いで俺を脱いだ。
どこからか、メグがずっしりと重厚感のあるミシンを出してきた。鉄製で机と繋がっていないミシンは 初めて見たかもしれない。
俺を裏返し広げ、手慣れた手つきで線を引く。
「アイロン無しで パパッと3つ折りして縫うけど ええか?」
「うんうん。さすがメグ様、カリスマ~」
ダダダダダっと針が裾を一週し、少し後戻りして また前に進み、針が抜かれて俺は斜め横に引き出された。
繋がった糸をパチンと切ると、「どない?」と、誇らしげに俺をユカに見せた。
「チョベリグ! マジで感動 5秒前!」
「あはは、5秒前。まだ感動してないんかいっ」
俺を着たユカは、大きな髪を頭に乗せてニット帽を被った。
頬に発色の良いピンク色のものを付けると、満足そうに鏡に笑いかけ
「よし。できた」
と呟いた。
「気をつけてな~。遅刻したあかんで~」
部屋の奥からするメグの声を、閉まる玄関ドアでバタンと遮った。小さな自転車と一緒にエレベーターに乗り込む。降りた先の透明な扉を出ると、初めて見る街角の風景が広がった。鼻の曲がるような、生き物の匂いのする街だ。
自転車に乗って、今から部長のところに向かうようだ。
(続く)