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「朝からカレーかいな」
台所で鍋に向かうユカに、起きたてのメグが声をかける。
「おはよ。カレーって凄いらぁ。朝食べると痩せるらしいじゃん」
話し方がいつもと違う。
「・・・もしかして、ユカって愛知県のひと?」
「やばっ!最悪!出てた?超テンション下がるんですけどぉ」
「そうなん?嫌なんや。てか、カレーって痩せるん?ちょうだいよ」
メグは何かの液を付けた手で 顔をもみほぐしながら、四角いテーブルのイスに腰掛けた。
「ほんと最悪ぅ。ぜったい人には内緒だよ」
「なんでやねん、ええやん愛知。てか、ご飯あったっけ。昨日の残りあるわ。ユカ、どんぐらい入れる?」
「下がるぅ・・内緒にしてぇ」
「はいはい。ご飯、少しにしとくで。あんた、痩せなあかんのやろ」
少し黄色いご飯を2つの皿に盛ると、台所のシンクにゴツンと乗せた。
ユカとメグの朝食は騒がしい。
いつ食べ物を口に入れているのか不思議なほど、喋る声が絶え間ない。
「カレーといえば、変な事件がニュースになってたよ」
「見た見た。町内で食べるカレーにヒ素入れたヤツやろ。物騒やね」
「ヒ素って味変わるのかなぁ、ユカ、気がつかないかも」
「ぜんぜん解らんのちゃう。てか、ものすごい頭のおかしい人が、地味にお菓子とかに混ぜてたら、数年後、人口減ったりして・・めちゃキモくない?」
「お菓子ってコンビニで売ってるような? あるわけ無いじゃん」
おしゃべりが盛り上がるわりに、さらりとカレーを平らげる。
「ごちそうさまでした~」
ユカがオーバーリアクションで手を合わせた拍子に、カレーの付いたスプーンが俺の上に落ちてきた。「あぁー」と呟やきスプーンを拾うと、食器だけ洗って出かけた。
俺の歴史にカレーの印が付いた。