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ここは いつもデニムパンツが山積みされている。
以前、俺のようなデニムパンツばかり集められた場所にいた事もあるので、量の多さで驚きはない。
しかし、ときおり男達が出入りする マモル君と出会った服屋とは様子が違う。
この店は、先週来た数十本のデニムパンツは、数日間のうちに誰かに選ばれ、その大半が店から出て行くのだ。
「はい、先週のトップはジブリちゃーん。拍手っ」
「ありがとうございまーす」
店の真ん中に集まった3人は、ユカを拍手で称えていた。
「ジブリ、何売れましたか?」
店長と呼ばれる ヒゲともみあげの繋がった男は、板が土台になった紙を片手に、何かを書き留めながら聞いた。
「えっと・・・デニムパンツにぃ・・ナイロンジャケットと、新物のTシャツが多かったようなぁ。ユカは100パー似合うと思ったのは水玉のスカートだったけど、恥ずかしいって言っててぇ、でもスパンコールのジャンパーがぁ・・」
「はいはい。ありがと、もういいよ。しかし、すごいねジブリ。まだ入って一ヶ月経ってないんじゃない?どうなってるの」
「だって、仕事クビになったらヤバいじゃん。頑張るしか無いっしょ」
すると横に居た、目の周りが真っ黒で白い顔の女が
「てかウチの店、クビになる前に スタッフから飛ぶから」
白い顔に浮かび立つようなピンク色の唇。その横で、シルバーの玉が小刻みに動いている。口の中へ突き刺さるシルバーの先が、喋るたびに歯茎か舌に突っかかるのだろうか。
「そんなこと言うなよ。怖いねぇ~っジブリちゃぁん♪ まぁ、確かに忙し過ぎるところはあるけど」
白くて大きい男が、猫なで声でユカに言った。短い黄色い髪は、根元だけ不自然に黒い。
「はい、ワイワイしないよー。さてと、今週は予算コレね。今日はコレ。今月は予算まで余裕だね。カギ編み系のニットを店出しするから、午前中に良い感じに棚あけといて」
店長は 数字が並ぶ紙を見せながら話した。そして、だらりと片足立ちしていた足を揃え、まっすぐに立ち直すと、
「よろしくお願いいたしまーす」
と声を張る店長。
「・・・しまーす」
まばらに復唱すると、ユカを残して 店の真ん中から散り散りに自分の仕事へ戻っていった。
俺のコインポケットのフチをつねりながら、しばらく立ちぼうけていたユカだったが、いつも立っているデニムパンツの山へ向かって歩いた。