俺はインディゴ 名前はまだ無い(22)

beans

 

22

 

本当におぞましい光景だった。

俺と同じようなパンツが、100本近く切り刻まれていた。

ハサミやカッターを使い、おぼつかない手付きの人間達が「きゃー」だの「ムズいー」だの楽しむように、太もも部分と すね辺りに刃を擦りつけている。

 

 

「はぁー、そんなことあるかい! 服屋だろ?パリッと活きが良い服を売るだろうよ、そういう場所は」

ユカの部屋では、服をクローゼットに入れていない。ひんやりとしたシルバーのパイプ棚に、服達を四角く畳んで積み上げている。一番下に畳まれた 派手な配色のサックスパンツが、俺の話を聞いて答えた。俺はよく着られるので積まれた服の一番上に置かれ、いつしか俺の定位置になっている。

「それが穴の空いているデニムのほうが、よく売れる時代らしい」

「ぶっそうな時代だな。まぁ切られちまっても 使われるなら安心じゃねぇか」

派手色サックスパンツは、日本で生まれ20年近く使われていなかったらしい。彼の場合、丈夫な生地と仕立ての良さが身を助けたと思うのだが。俺に似たパンツ達は、丈夫だが使い古されている。機能として必要の無い場所に穴を開けられ、安心だということには頷けず、「あぁ」と形だけの返事をした。

「お前さんの切られた裾、おぼえてるか? あれ、ミシンに縫われて 何かに作り変えられてたぜ。捨てられてるパンツの裾を、この部屋で何度か見てきた。お前さんは運が強えぇヤツだ」

「ああ、そうかもしれない」

確かに俺は運が強いかもしれない。運のおかげだけじゃ無いとして 思い当たるのは、「もう一度、着られたい」と強く願ったことがある。派手色サックスパンツが生まれたぐらいの事だろう。数十年かかったが願いは叶った。大抵の願いや祈りは叶うように出来ている。呪いは自身にも降りかかるが 叶う。思うようにならないのは 他人の心だけだ。

 

「売れる為の穴だから安心しな。肝っ玉のちっちぇえ奴だなぁ」

 

俺の不安を解ってもらおうだなんて、おこがましいのかもしれない。俺にも棚の一番下で出番を待つ 派手色サックスパンツの気持ちはわからない。

ただ俺は、この派手色サックスパンツが嫌いではない。

 

「パンツに肝も玉もあるわけないさ」

と返すと「上手いこと言うな」と笑い合った。

 

 

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