俺はインディゴ 名前はまだ無い(23)

beans

23

 

いつもに増して 赤いチークが丸く浮いた顔。ニット帽と頭の間に挟まった 偽物の髪の毛も、おろし立てで艶々としている。

仕事上がり。

ユカはトイレの鏡の前で 入念に身支度をしている。近所のビルで働くロープ頭の男と会うので、いつになく気合いが入っているのだ。

 

先週の会話で、ロープ頭の男は「飾らない感じが良い」とユカを褒めていた。街に歩いている人間と比べると、ずいぶんと頭から足先までデコラティブな装いだが、見た目の話しでは無さそうだ。いや、ロープ頭の男もインパクトの強い出で立ちなので“自分に比べれば、飾らない”という意味だろうか。とにかく2人は、お互いを良く想い合っているようだった。

 

タイムカードの紙を差し込むと「おつかれさまです~」と 其所いらあたりに音を発しつつ気配を消し、軽い足取りで事務所を抜け出した。

 

ビルの隙間に無理矢理つくったような、細い細い路地を抜けると、右手の遠くにメグが見えた。するとクルリと向きを変え、左へ足早に遠ざかる。

メグの視界から外れるように、出てきた十字路で直ぐ右に曲がる。そしてまた、ハッハッと息が切らしながら歩き右に曲がった。

 

「あれ?どっかいっとったん?事務所に迎えに行こうと思ってたんだけど・・・」

ロープ頭の男が不思議そうに声を掛けた。

「あっ! えっと、ちょっと迷ってしまって。ユカもそっち行こうと思ってたんだけど・・・・。てか、ドレッドのお団子ヘア、初めて見た!可愛い~」

 

やはり2人は想い合っているようだ。

夕食を食べるとき、体温から伝わってきた。

細い竹楊子で ぽってり崩れそうなタコ焼きを、曲芸のように持ち上げ口に運ぶ。

ひんやりとした夜の空気が公園を包み始めていた。いつもよりも小さくあけた口から、タコだけこぼれ落ちそうになり、初恋のように恥じらい汗ばんでいた。

 

 

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