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シルバーのパイプ棚に、無造作に畳まれて迎えた朝。
いつもの朝ではあるが、キッチンに立っているのがユカではない。さっきから「うわっ」と太い声と共に、ガタンゴトンと騒がしい。
ユカは目を覚まし 俺を履くと、肩に三角形のカギ編みニットショールを羽織った。そして、ふすまを開けて台所の覗く。
「おはよ・・・なにしてるの?・・・ ど凄いごちそうじゃん!」
台所の似合わないメグが、少しつかれた表情で振り向いた。どうやらテーブルに並ぶ寿司とフライドチキンは出来合いの惣菜を皿に並べたただけで、作っているのはスープだけのようだ。そのわりにヘアバンドからエプロン、靴下まで薄紫色でコーディネートされた服装の方が 綿密に作り込んでいる。
「せやろ、がんばってんねん。お祝いやで」
「なになに?なんの日だっけ」
「なにって、あんたのやん。いい人出来たんやろ?バレバレやのに隠したそうやったから、こんな豪勢なパーティーにしたってんで。もう白状しぃ」
「あは・・は・・でも、仲が良いだけで、まだ、正式にそういう話をした訳では無くぅ・・」
「はいはい。あのドレッドの子、ええ子っぽいやん。なんかユカと似てるよね」
「えーっ、バビるわぁ。なんで知ってるの?」
「なんでって、コソコソしたって目立つわな おたくら。まぁ食べよ。うち、今日 ちょっと早よ出なあかんから、あんまり時間ないねん。」
おにぎりのように大きい握り寿司をつまみながら、今日の朝もふたりはよく喋る。やはり どの口で食べているのが不思議なほど、賑やかに話し続けている。
「せやけど、ほんまユカも朝方人間でよかったわ。夜の10時から2時って成長ホルモンが分泌されるらしいんよ。そこ寝ないとかアホや思うねんな。なんぼクリーム塗りたくったって、内側から出てくるもんにはかなわへん」
「ユカ朝方じゃないよ、大阪は遊ぶ場所わかんないし。メグ、お肌つやつやだもんねー。化粧品って高いの使ってる?給料入ったし良いの買っちゃおうかなぁ」
「いらんいらん、日焼け止めだけきっちりしとき。外から入れるより、内側から無駄なもん出したら全然ちゃうで。とりあえず無駄に高い歯磨き粉から止めてみよか」
メグはいつの間にか空になった皿を片付けながら、皿を洗いにシンクへ立ち上がった。
「なんで歯磨き粉なの~?」
「話すと長いねん。・・・ほな気が向いたら うちの重曹つかってええで」
「えー無理 無理。チューしてクサっとかなったらマジ無理だし」
「せや、せや。恋しとんねんなあ~」
からかうように「ここでキスしてぇぇ~」っと歌いながら、メグは自分の部屋へ引っ込んでいった。