小説

俺はインディゴ名前はまだない(26)

beans

 

26

 

玄関のドアが閉まると、入り込む街灯の光も遮断され、部屋の中はまっ暗になった。

電気を消さずに寝るメグが、今日も帰っていないことがわかる。

同居をはじめたばかりの時に、電気代で揉めることを避けたかったメグは全て自分が支払うことを提案していた。夜、暗いと眠れなくなるらしい。

そこで料理や長風呂が好きなユカが 水道代とガス代を払うことで、お互いに納得した暮らしをしている。

 

とかくメグが居ないと部屋に灯りが消えたようだ。

まっ暗なままキッチンを抜け、ユカの部屋に入る。

 

カバンを置くと、引き出しからハサミを取り、キッチン前のテーブルに戻った。

 

コンロ横の蛍光灯を付けると、フラつきながら俺を脱ぎだした。酔っているのは、仕事帰りに食事をしてきたのだ。

ロープ頭の男と食事することはたまにあるが、仕事が終わると、ひとり食品を買って家に帰るルーチンだが 今日は違った。

 

仰々しいガラスのジョッキに氷を詰め込み、炭酸と色の付いた酒を 氷の隙間に流し入れた水分。それを口にしながら、小出しに持ってくる焼きたての鶏肉を待つ店に居た。ユカは誘われて行くことはあるが、自分から酒を飲みに出かけるのは珍しい。

ひとりで鶏肉を待つ時間を埋めるには、4杯の酒が必要だった。初めの大きなジョッキから、2杯目からは とろりとした褐色の酒が氷と溶け合う小さなグラスに変わっていた。

 

店を出た頃に酒が足に回っていたのか、御堂筋という広い道のマンホールで、自転車のタイヤを滑らせ転倒した。そのとき俺もペダルに巻き込み、裾からふくらはぎがオイルで黒くなってしまった。

自分の傷よりも 汚れた俺を見て「ああぁ」と落胆しているユカに、見知らぬ中年の男が声をかけてきた。

「うわぁ、イケるか? 立てる?」

「大丈夫、大丈夫」 そう言うと、ヘラヘラ笑顔を返しながら立ち上がり、自転車を起こし上げた。

「ええ顔や。そのまま行きや。これ、持って帰り」と言うと、財布から一万円札を取り出しユカに渡し、中年の男は 何処かへ去って行った。なにが起きたのが解らず、呆然と立ち尽くしていたユカだが、しばらく何かを静かに考え込み、また自転車に乗って走り出した。顔はよく見えないが 涙をたくさん流しているようだった。

 

そんな事があったせいか、ユカは 今まで見たことの無い表情をしている。

俺を脱ぎ、テーブルの上に置く。

蛍光灯に照らされたハサミが、不気味にギラリと光る。

刃先が俺をグサリと刺した。

 

ああ、俺はココで終わるのか・・・・。

 

走馬灯のように、昔のことが思い出される。

そう、俺が生まれたのは機械音の騒がしい工場だった。

 

 

(27へ続く)

 

 

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