小説

俺はインディゴ名前はまだない(27)

beans

 

27

 

俺はインディゴ。暗い夜の海のような液体の中をくぐり抜けて、ゆっくりと目を覚ました。

その液体はインディゴ液というらしい。

何度もくぐり抜けるうちに、俺はインディゴとして産声をあげた。

 

生まれたとき産声とともに 前世の記憶は無くなると言われるがボンヤリと憶えている。というのも、生まれてから次に生まれ変わるスパンが短すぎるからだ。一番古い記憶の話をしたい。それは心地よい記憶だ。

 

俺は土の中で産声を上げ、光を探して上へ向かった。地上に出ると、とんでもなく美しい空が俺を包みこむ。うれしさに太陽に向かい、ふたつの葉をしっかりと広げた。俺の喜びを祝福するように土の匂いが甘く立ちこめる。この時ほど優しい香りは、後にも先にも体験することは無い。

その後、俺はただ生きることに夢中な日々だった。やがて花が咲き、散り、白い綿が出来ると、人間の指で俺の一部はもぎ取られた。

 

次に生まれ変わると、細い糸になっていた。そのときは大きな産声をあげた。また始めから知らない人生を始めることも嫌だったし、太陽の下で風に吹かれる人生が終わることにも抵抗したかったのだ。嘆きの声が落ち着くまもなく、俺はインディゴに生まれ変わった。

 

その後は 楽しげな音が重なり合う機械によって、俺は布に織り上げられた。産声なのかカッチンコーと歌う織機の声なのか・・・今ではその記憶もあいまいだ。

布になった俺を様々な形で切り分け、また何台もの針が軽快に糸でつなぎ合わせた。リベットも打ち付けられる。その過程の中、情熱と冷静のあいだで迷い無く触れる人間の指は、俺に個人としての自信を与えているようだった。

 

こうして俺は、衣類になり産声をあげた。

最後に小さく切られたレザーを付けられたのだが、そこに書かれた「501ZXX」で俺を呼ぶ人間もいた。

 

(28へ続く)

 

コメントを残す

*