小説

俺はインディゴ名前はまだない(29)

beans

 

29

 

マイクが家に寄りつかずに生きていけたのは、ゆるいカーブを描く茶色の髪をしたキャロルという女の家に寝泊まりしていたからだ。

彼女はマイクよりも 10年ぐらい長く生きてきた風貌だったが、彼に対して目線はいつでもフラットだった。人間というのは、自分より若いものに傲慢であって良い生き物と思っていたが、どうやら そうでも無いらしい。

 

ある日 キャロルは「カルフォルニアに行かないと。ダイナーは辞めてきたわ。あのクソ不味いパンケーキを配るのはウンザリなのよ」と言い 街を離れることになった。

もちろん俺を着たマイクも、彼女のトランクケースと共に乗り込んだ。自分の荷物は何も無い。きっと大事なものは、そこに無かったのだろう。

 

 

新しい街の躍動感は、まるで溢れ出るマイクの希望のようだった。

ダッドが乗っていたような、大きく仰々しい車から、見たことの無いタイトなフォルムの車まで、道が見えない数の人と車が行き交う。

人の中に、マモル君に似た人間も見かけた。俺に似たパンツも多く見かけた。前の街とは比べものにならないほど沢山、俺と同じインディゴであろう衣類が歩き回っていたのだ!自分と似たものが多い場所は、ひと目みたときから懐かしさと安心を感じる と知った街でもある。

 

2人は小さな部屋で暮らしはじめた。

天気の良い日は公園の広場で踊り、雨の日は部屋を煙で真っ白にして何かを吸い込み、くつろいだ時間を過ごした。

数ヶ月が過ぎた頃から「虫が湧き出てくる、壁が膨らむ」など、キャロルは部屋の壁を叩いて大騒ぎすることが増えてきた。そしてまもなく「時が来た」と言い残し、トランクケースと共に出て行き、二度と帰ってこなかった。

 

ひとりになってまもなく、マイクは働きに出かけるようになった。

その頃、俺では無いインディゴのパンツが クローゼットに一本増え、白いパンツを着た女が 部屋に住み始めた。

 

(30へ続く)

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