小説

俺はインディゴ名前はまだない(30)

beans

お待たせいたしました。公開が遅くなり申し訳ございません。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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30

 

白いパンツの女が住むようになった部屋は、毎日、ギターの音で溢れていた。

歪んで響く弦の音は、経験で詰め込んだ 人間の概念まで震わせる効果があるのか。

マイクの日々は、その音と共に流れていった。

 

朝起きて直ぐガソリンを注ぎ込むように、レコードと呼ばれる黒い円盤が出す音を 身体へ注ぎ込む。マイクが俺ではないパンツを履いて出て行ったあとは、白いパンツの女が音に溺れて過ごす。そして一日の終わり、うっぷんを晴らすように 2人でレコードの世界へ旅立つ。そんな日々だ。

 

部屋の中で音に溺れるのは、3人の時もあれば、5人の時もあった。

「宇宙から助けがくる」と天井を仰ぐ人間もいれば、「生贄を探す奴らの陰謀だ」と勇んでいる人間もいた。だれもが自分が信じる現実の中で生き、それを否定する人間が居ない集まりだった。マイクは部屋に集まる人間を「友人」と呼んでいた。

 

ある日、車で数十分離れた原っぱで大勢が集まり、ひとつの歪んだ音に溺れる集まりがあった。

そこでは歪むギターの音は さることながら、フワフワと長い髪を振り乱して歌う女が居た。悲しみと怒りの滑稽さを響かせた声が、大勢の人間達をまとめて陶酔の世界へ連れ出している。そこはバンドと呼ばれる音を出すチームが入れ替わり見世物をし、感覚の世界に身を委ねる人間の集まりなのだろう。

 

数年後にも、そのしゃがれ声の女が歌うバンドを見に行くと、たびたび部屋に遊びにくる 茶色い歯の男が言った事がある。

 

 

「遠すぎるし辞めておくよ」

マイクは茶色い歯の男に笑顔で答えた。

「ウッドストックだぜ! 行かないなんで馬鹿げてないか?ジャニスも出るし どうしたんだ?」

俺と似た作りだが、裾が地面に向かって大きく広がったパンツをガサリと掠れさせて、茶色い歯の男がのけぞる。

「リサに子供が居るんだ」

そう言うと、白いパンツの女のお腹にそっと手を置いた。

 

その頃から歪んだギターの音が 部屋を埋める日が減っていった。俺を着る回数も減り、灰色のサックスパンツが一時期クローゼットに入ってきた。が、まもなく居なくなった。

しばらくして「517」と書かれた俺に似たパンツが3本増え、やはり俺の出番は無くなったが、他の服とは違い 捨てられることは無かった。

 

住む場所を変えるとき、俺はトランクケースに詰め込まれた。

「そのパンツはなあに?」と聞く小さな女の子に、マイクは「悪夢から抜けだして カリフォルニアに来た時の相棒」と紹介してくれた。

 

その言葉が、俺が聞いた 最後のマイクの声だった。

 

(31へ続く)

 

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