小説

俺はインディゴ名前はまだない(35)

beans

 

35

 

刺さったハサミを抜き、穴を中心に両手で握るとゴシゴシと擦り合せるユカ。糸が次々に飛び出しながら俺の穴は広がる。

「これは大丈夫だ。」

俺は思った。

100本近いデニムパンツが無残に切り刻まれた光景を過去に見たことがある。彼らはその後、無事に衣類として旅立っていったのを思い出した。

とはいえ想像以上に大きな穴が両方の太ももに開いた。こんな大きな穴の空いたパンツは見たことが無い。やはり俺はここで終わるのか……。

穴を開け終えたユカは、俺をいつものラックへ乗せた。何事も無かったように洗面所でうがいをして柔らかい衣類に着替えベッドに入っていった。

 

太陽の日差しが入り込んでから何時間も経ったころユカは起きた。

俺は……また着られた。俺は衣類のままだった。

 

「おはようさん。遅番なん?」

メグが帰っていた。いつものように顔に何かを塗り込みながら、テーブルのイスであぐらをかいている。

「うん。頭ど痛い。昨日、飲み過ぎたらぁ」

「呑んどったん? 珍しいなぁ。てか、めっちゃ可愛いやん、ユカが開けたん?」

「良いっしょ。夏だしね~。過激でサイ・コウ・オ♪ に、してみました。」

「あはは、ほんまやな。もはやミニスカートやな、それ。タイツ履かへんの? イメチェンやん。」

「でしょ。ギャルっぽくしたくなってさー。”マジ古着を着たギャル”で行くわ。日サロも行こうかな。ユカ、本気モードで売ろうと思ってるんだ。もうすぐ2000年になるでしょ、このままだとヤバいっしょ。」

「あはは。ノストラダムスって7月やろ、大丈夫やったやん。でもウチ思うねんけど、何かが起こるって言うか、これから人類を追い詰めるヤバい奴が生まれた日だったりしてね。てか、どないしたん。店でなんかあったん?」

「まぁたいしたこと無いけど。ユカ、マジの販売員になる。」

冷蔵庫から大きなパックのお茶を取り出し、ストローを差し入れながらテーブルのイスに座った。メグはパックの飲み物は不味いので飲まないらしいが、ユカは価格の安さが気に入っているようだ。

「なんか燃えてるんやな、そっかそっか。ヤバいと言えば部長辞めるらしいよ、引き抜きって噂やで。なんや文具でも均一ショップが増えてるやん。古着でそれするらしいよ。」

「うそ!マジで? 辞めちゃったらもうダメじゃんウチの会社。なんだっけ、社長の知り合いとかいう最近入ってきた人。客道が大事とか言って、什器さぁ勝手に移動したりするからウザいらぁ。店がちょーダサくなったらぁ!」

「あぁ、あの人ね…。人を駒みたいに考えてそうやね。昨日の会議で“服も大量に入れて大量にはける時代が始まってる”だってさ。なんかキショって言いそうになったで。スタッフにも個性は要らないんやろね。」

「えー、ユカだめじゃん。てかメグもじゃん。」

「あはは、濃いもんなウチら。それがさぁ服の自動販売機を作りたいんやて。囚人服でも売る気なんやろか。それを良しとする社長もダサいやろ。服を舐めとんちゃう。」

「あぁー、確かに。あの変な帽子さぁ高いらしいけど、全然イケてないらぁ。」

「ほんまに。“よいしょ“の取り巻きに任せて、自分の頭は動かさんのやろな、あのオッサン。」

 

珍しく文句で盛り上がる2人の会話。自分に迫る危機を感じると攻撃性が高まるのだろう。

生物の本能なのかも知れない。

 

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