小説

俺はインディゴ 名前はまだ無い(10)

beans

 

10

 

大きなスリッパのような陶器に尻を近づけるマモル君。膝でじゃばらに寄せられ、しゃがんだ足に挟まっている。

「トイレ」と言うとこのスタイルになるのだが、初めは困惑した。マモル君に出会うまでは無かった体験だった。慣れてきた頃には、なかなかこの空間が気に入っていた。

 

天気の良い日は 居心地の良い個室だ。

 

ひびの入った小窓はいつも開いていて、今日は清々しい青空が見える。時折、鳥が横切って行き退屈はしない。

その窓から入った風は 膝を通り過ぎ、ドア下の隙へ駆け抜ける。ドアを出ると小さな踊り場があり、外へ続く階段がまっすぐに降りている。まるで階段をのぼってきたように、一階から巻き上げた風が、ドア下を抜けてくることもある。

 

錆びた階段をボンボンとのぼる音がする。

風では無い誰かが上がって来た音だろう。

 

するとマモル君は尻を上に上げるように、曲げた膝を伸ばして少し立ち上がる。俺は床に落ちそうになるが、両手で握られ事なきを得た。

この尻を上げる儀式を、黒毛にこう話していた。「ここの集合トイレ、気を付けて使えよ。階段から見上げたら、ケツが丸みえになるからな」

これは尻を隠すための儀式なのだ。

 

足音が遠ざかると、また大きなスリッパへしゃがみこみ、トイレでの用事を終わらせた。

 

じめじめとした個室を出ると、心地よい風が吹き抜ける。

 

「手洗い場、作れよ・・」

つぶやくマモル君は不満そうだが、俺はこの爽やかなトイレを気に入っている。

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